【青い街灯の下で】

 第一章 僕とリサ 1

 

「ねえ、青山さん。」

 

彼女はここにくると、いつも僕に話しかけてくれる。

僕の本当の名は青山ではない。

彼女に名乗った覚えもない。

いつしか彼女がそう呼び始めていたのだ。

理由は知らない。

 

けれども、僕はしらんふりして「青山さん」でいる。

 彼女が望んでいるのは、律儀に受け答えをする「僕」ではない。

 黙って話を聞いてくれる「青山さん」という存在なのだ。

 

 ◆              ◆                ◆

 

ねえ、青山さん。

 

わたし、今すっごく悩んでるの。

どうしたらいいのかしら。

もう、わかんなくなっちゃった。

 

友達は、とにかく彼のところに行ったほうがいいって言うんだけど、ええ、先輩のところへ。

そりゃあわたしだって、早く彼に会いたいわ。

でも、今会ったらだめなのよ。

彼に迷惑をかけるだけだもの。

友達って薄情なものね。

わたしがこんなに悩んでいるのに、きっと面白がっているんだわ。

だから、早く彼のところに行け、なんて言えるのよ。

結局、わたしの言うことなんて聞いてないんだわ。

 

 ああ、もう、どうしたらいいの。

 あなただけだわ、青山さん、わたしの話を面白がらずにただ聞いてくれるのは。

 それがどんなに救いになっているか。

 いつもありがとうね。

 ああ、彼、今日いるかしら。

 今会っても何も言えないけれど、とにかく会ってみようと思うわ。

 先輩も今週中には一度会いたいと言っていたし・・・・・・うん。

 迷うことじゃないよね。

 あたし決めた。

 

 はあ。あたしって、本当に優柔不断。

 いろんなこと考えちゃってさ、結論を出すまでに時間かかるの。

 正直まだ迷ってはいるけど・・・・・・このままじゃいけないことはわかってるの。

 うん、これでいい。

 

 今日もありがとう、青山さん。

 いつもいつもあたしばっかりしゃべっていて悪いわね。

 助かってる。

 あなたがいてくれてよかったわ。

 じゃあ、またくるわね。

 

 ◆              ◆                ◆

 

 

彼女は一息に話し終え、僕の傍から去っていった。

・・・これから、先輩に会いに行くと言っていたな。

 

彼女が何を迷っていたかはよくつかめなかった。

が、なんとなく分る気がした。

彼女との付き合いは長い。

彼女の話に「先輩」が何度登場したことだろう。

 

 僕は、言葉にできない思いが湧き出てくることにも「しらんふり」をした。

最近の僕はなんだかおかしい。

彼女に会えることはすごく嬉しいのに。

話を聞いていると、もやもやとした感情が僕を蝕んでいく。

 

会いたいと言えば彼女に会える「彼」。

望んでも、待つしかない「僕」。

 

 

 

・・・・・・彼女は彼に会えただろうか。