【青い街灯の下で】

 第二章 城嶋 6

 

 

からん、とまた音がした。

そしてカツンカツンとヒールの音も。

リサはパンプスよりもスニーカーを好む。

だから、城嶋は彼女とは思わずに本から目を上げなかったのだが。

 

「城嶋さん」

 足音が目の前までやってきて、椅子が引かれた。

 「すみません、待ちました?」

 驚いて顔をあげる。

 時計を見れば、一時5分前。

 「いや、俺もきたばかりだ」

 「そうなんですか?よかったぁ」

 今日のリサはめずらしく白を基調にした緑の花柄のワンピースに白いパンプスという可愛らしい服装をしている。

 いや、いつもが可愛くないというわけではないのだが・・・

 大学ではカジュアルな姿が多いからいつもの彼女とは違って見えて心なし緊張する。

「城嶋さん、何か注文しましたか?」

「いや、まだだけど」

「何がいいですか?あたしのオススメはこのブルーマウンテウンっていうコーヒーです。

あたし、ここに来ると絶対に飲むんです。

城嶋さんにも試してもらいたいな」

「うん、それでいいよ」

そこまで勧められたら断れないよ。

「本当に?じゃあ注文しますね。

すみません、オーダーお願いします。

はい、えっと、ブルーマウンテンふたつお願いします」

 

 

                  ◆                 ◆

 

 BLUEという名の店なだけにブルーマウンテンはほどよい酸味と苦みがコクとなっていて大変美味であった。

 特にコーヒーにこだわりのない城嶋でさえ「おいしい」と感じたのだから、そうとういい豆を使っているに違いない。

 豆を挽いて、布を張って湯を注ぎじっくりじっくり「待つ」ことで特別な深みが出るそうだ。

こんな味を出せるマスター自身の人柄にも触れた気がして、「待つ」にしても焦りをもった自分との違いを実感する。

さて、リサの渡したいものとは何だろう?

 

わざわざ喫茶店にまで休日に足を運んだというのに、結局ふたりはコーヒーを楽しみながら他愛もない話をしただけだった。

リサの用とは本当に「渡す」ことだけだったらしい。

時間はとらせませんから、という以前の前置きの通りコーヒーを一杯おかわりしたところでふたりは店を出た。

もちろん、コーヒー一杯で一日しゃべっているようなガールズトークを繰り広げたわけではない。

 

今、車を運転する城嶋の鞄のなかには、リサから手渡された手紙が入っている。

その場であけようとしたのだが、どうしても帰ってからにしてくれというので、中身が気になってしょうがない。

言葉では言いづらいこと?

目の前で読まれるのは気恥ずかしいこと?

女の子の心づかいがつまったような可愛らしい封筒を思い出して、城嶋の心は否が応でも高揚してゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

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