【青い街灯の下で】
第二章 城嶋 3
ふと城嶋が顔を上げると、暗い夜道の数メートル先、青い灯りに照らされてたたずむ女性の姿があった。
あれは・・・リサ?
思わず駆け出していた。
「はぁ、はぁ・・上田?」
「・・・城嶋さん」
振向いたリサは涙こそ浮かべてはいなかったけれど、今にも泣き出しそうな表情をしていた。
「どうしたんだ?酷い顔してるぞ」
「うっ・・・城嶋さんたら・・・女の子に向ってヒドイですよ・・・」
いつものリサだったら泣き顔なんてすぐにひっこめて軽い拳が飛んでくるはずだった。
人に気を遣わせまいとする健気な子ではあるが、これはそうとう落ち込んでいるらしい。
こんなに弱っているリサを見るのははじめてだ。
「すみません、こんなヒドイ顔見せちゃって」
「い、いや、大丈夫だけど・・・」
威勢のいい普段のリサと違って、今の彼女は支えてくれるものを必要としているように見えた。
なぐさめたい、えがおにしたい、まもってやりたい――
そう思うものの、気の利いた言葉が出てこない。
口下手な自分をここまで恨めしく思ったのは初めてだ。
「大丈夫・・・うぅ・・・すみません、今日はおつかれさまでした!」
『大丈夫』という一言から何を思い出したのか、何を感じたのか、リサは涙交じりの声で短く別れを告げると、急に走り出した。
「おい、まて。」
足が勝手に動いていた。腕が勝手に動いていた。
城嶋の右手はリサの左腕をとらえていた。
「放してください!」
「・・・・・・」
「一人になりたいんです!!帰らせて!」
「・・・オレじゃ、力になってやれないのか?」
「・・・っ、わたし・・・わたし・・・自信が持てないんです・・・なんで・・・どうして・・・城嶋さん・・・」
リサの左手には携帯電話が握り締められている。
原因はどうやら電話かメールだかで何か言われたことらしい。
彼女の自信を喪失させられるような、何かを・・・。
「オレは、おまえのこと、認めてるぞ。
おまえはよくやってる。
だから・・・自信もてよ。」
「・・・うう、ありがとう・・・ございます・・ううっ」
不器用な城嶋。
不器用な言葉しかでてこない。
だから。
せめてもと、城嶋は、リサの涙がとまるまで、共に青い灯りに照らされるのだった。